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「大阪しゃれ言葉」の連載にあたって
                経営活性化委員会委員長    二村 知子
 大阪独特のやわらかい言い回し、それでいて、主張は通さねばならない上方ならではの商売人の智慧としてよく使われていた「大阪しゃれ言葉」
 その冊子の企画を提案し、昨年十月から、毎日新聞の余録を書かれた方にお話を聞かせていただいたり、木津川計さんや、大阪ことばの研究をされている著名人に、お会いし、情報の収集をしてまいりました。
 そんな中で、大阪商工会議所の地域活性化の方から、大阪しゃれ言葉に詳しい和田哲株式会社の和田亮介会長をご紹介いただきました。上方の文化のひとつとして残っていた大阪のしゃれ言葉の本が、このまま無くなっていってしまうのは、寂しいと思う気持ちと、お客様の要望をかなえてさしあげるためにも伝承していけたらと、お話させていただく中で、そのことを、理解し、また共感して下さいました。
 大阪書店組合だよりと、大阪書店組合のホームページへの「大阪しゃれ言葉」の連載を、恐縮しながらも、お願いしたところ快諾して下さいました。
 今年は、国民読書年であり、読者からの要望のあった、「大阪しゃれ言葉」の冊子作りの一案として、そのしゃれ言葉の成り立ちなども含めこれから、和田亮介会長に執筆していただきますので、お楽しみに。
 

(執筆をお願いしました和田氏のご希望で縦書きで掲載しておりますが、IE以外のブラウザをお使いの方には横書きで表示されます。)


大阪しゃれ言葉 その1
 「船場商人はやんわりしたユーモアを忘れなかった。取り引きの場だけではなく、日常の生活の中にもこれを取り入れ、 トゲトゲしい雰囲気もよく和らげる効果があった。」

 これは船場で生まれ育ち、劇作と演出で高名の故香村菊雄さんの言葉である。船場という城下町は大阪港を埋め立てて作った新開地、 周辺諸国から商人を集めた、俄かづくりの商業地である。

 それだけに、それぞれに異なった気質をもつ商人達が、お互い融け合うことは並大抵ではない。そのために手っ取り早いのは、 〈笑い〉である。〈笑い〉は瞬時にして人の心を結ぶ。ところで香村さんには『定本船場ものがたり』という名著がある。船場育ちではない私は、 実はこの本で船場を知った。大恩のある一冊だと思っている。

 この本に〈ことばのユーモア〉という一項があり、「黒犬のおいど」「牛のおいど」「太鼓のおいど」など、尻(おいど)づくし をはじめ三十数句のしゃれ言葉がのっているが、もともと、元禄から文化文政期につくられたものだけに、今では通じぬものも少なくない。

 ただ「金槌(かなづち)の川流れ」「夏の蛤(はまぐり)」「傘屋(かさや)の丁稚」など、現代でも時折使われるものもある。

 五、六年前のことだが、大阪府下の高校の校長先生の集りで船場の話をした時、話の中でしゃれ言葉のいくつかを紹介した。 その時、ある女性の校長さんから、父から聞いたしゃれ言葉として「雨降りの競馬場」が披露された。頭をかしげる私に「雨降り(=不良)の競馬場(=婆)」 が返って来た。さすがは大阪、やはり〈笑〉は生きている、と思ったものである。

 近ごろの大阪、〈吉本のお笑い〉は町に溢れているが、互いの心をつなぐ、そして何よりもゆとりのある笑いが少なくなったのは、 いささか「猿のしょんべん(=木/気にかかる)」である。

和田亮介